おっさんレボリューション <第1話>
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冴えないオジサンが人生逆転する話を書き始めたんですが、肝心の逆転する構図が全く思いつかないまま第1話公開です。
第1話 若く美しい女性は存在することに意義があるが、存在するだけのくたびれたオッサンはゴミである
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
俺はサトシ。
特にポケモンマスターは目指していない。
歳は現在38。
襲い掛かってくる虚無感をマトリックスよろしくイナバウアーで華麗にスルーし続ける毎日だ。
ただただ無気力。世界は灰色。
仕事も昨年、自販機のボタンを押すような感覚で辞めてしまった。
いつからこんな風になってしまったのだろうか。
おそらく30代半ばでガクンと性欲がなくなってしまった頃だったように思う。
やはり性欲はエネルギーの源であり、生きる活力なのだ。
と言っても顔も中の下でモテた試しなどなく、性欲があってもなくても実質変わらないのだけど。
こんな自分でも人生で一度だけ告白されて付き合ったことがある。
だが蓋を開けてみると、酷いヒステリー持ちのメンヘラで女性と付き合うこと自体に恐怖感を覚えてしまった。
それに、対人恐怖症とまではいかないのだが、根っからのコミュ障でまともなコミュニケーションをとることがかなり困難なため、人と接することでかなり精神が疲弊してしまう。
おかげで青春時代に明るい思い出など一つもない。
だいたいクラスというものはイケてるグループとイケてないグループに分かれるものだが、イケてないグループにすら属せず、休み時間はもっぱら机に突っ伏して寝たフリをしていた。
まったくもって暗い自己紹介である。
この年になると、全くパッとしない自分に可能性や希望など見出せるはずもなく、おまけに親の介護も意識しはじめるようになり、何が楽しくて生きているのかわからなくなってくるのだ。
情熱を注ぐ対象が何もない。
だが自ら死ぬほどの理由もないので惰性で生きている。
しかし、惰性で細々と生きていくためにも本気で職を探さなくてはならない。
失業保険もとっくに切れて貯金も目減りする一方だ。
自分が20代のころは親も結婚しろ結婚しろと口酸っぱく言ってきたが、昨今の適齢期世代の非婚化、離婚件数の増加もあり、30を過ぎてからは何も言わなくなった。
親戚連中は未だに会う度、嫌味のように言ってくるが、元々彼女すらいないし、ずっと結婚願望が湧かなかったのは、子供の頃から日常的に繰り広げられる凄惨な嫁姑バトルを目の当たりにし続けた結果でもあるのだ。
実家の環境には辟易していたため、働くようになってからすぐに家を出た。
一人はいい。
何をするにも自由だ。
何をしても咎められず、休みは好きなだけ怠惰な生活を送ることができる。
ひたすら気楽な身分を謳歌することによって、いまさら誰かと生活を共にするということが想像できなくなってしまった。
そもそも何かに対して責任を取れるような大層な人間ではないのだ。
ハローワークに足を運んでみれば相変わらず失業者でごったがえしている。
地方はいつまで経っても不況真っ只中だ。
自分は物欲もないし、趣味と言えばブックオフで108円の小説を買うぐらいなので今更高給も望まないし、年収200万くらいの楽な仕事で十分なのだが、それでもこれと言った特技もない中年(おまけに月一受診・治療が必要な持病持ち)にとっては狭き門である。
「おっ、これなんか丁度いいな」と思っても書類選考で足切りされてしまう。
面接にすらたどり着けないのだ。
飲食店やコンビニ等のバイトというものは経験がないので年下にアゴで使われるのは抵抗があり、できるだけ避けたい。
こんなオッサンでも一応プライドはあるのだ。
そんなこんなで仕事にありつけぬまま日々が過ぎていった。
そんなある日、知り合いの男性から連絡が入る。
「よう、久しぶりに飲まね? 〇日ヒマ? とりの介予約してあるから来いよ。」
うーん、ヒマと言えばヒマだ。
たまには飲むのもいいか、ということでOKした。
当日、予約してある席へ店員さんに案内されると、知り合いの男性と一緒に2人の知らない女性がいる。
「エミでーす。」「マリでーす。」
これは一体…。
「あ、今日合コンだから。他の男メン仕事で忙しいみたいでさ。お前が来てくれて助かったよ。」
(アホかてめえは!無職が合コンに来て何の意味があるんだよ!生き恥晒せってのか?ああ!おい!)
「あ、サトシです。」
即行で回れ右して帰りたい気持ちを抑えて名前を言う。
「サトシさんはお仕事何されてるんですか?」
ほら来た!
「あー、今求職中なんですよね~。」
エミ「あ~。」
マリ「へ~。」
気まずい沈黙が流れる。
知り合い男「2人とも今彼氏いないんでしょ?」
おっ、いいぞ!ナイス話題転換!ナイスアシスト!
エミ「この前彼氏と別れたばっかりなんですよ~。なんかデートとかもだんだん安い店になってきて~、あんまりお金かけてもらえないなら付き合ってる意味ないな~と思って。温泉とか近場の旅行は月に何回か連れてってもらってたんだけど、彼全然貯金できない人みたいで~給料毎月全部使っちゃうから先が見えないってか将来が不安になってきちゃって~、もっといい人探そうかなみたいな。」
・・・。
いやー、そんだけ金使わされたら貯金できないんじゃないかな。
知り合い男「ちなみにマリちゃんはどんな人がタイプなん?」
マリ「うーん、タイプってか、まず自分より年収低い人は男として見れないですね。30代なら少なくても450万以上はほしいかな。」
・・・。
うん、まぁ、決して高望みな年収ではないけど、タイプ聞かれて年収て。
そんな話を無職の僕は喪中みたいな顔して聞いてる訳ですよ。
エミ「サトシさんは結婚願望ないんですか?」
ウッ!痛いとこ突いてきやがる。
「あー、結婚か~、う~ん、まだちょっといいかな~。ホラ独身も気楽だし。」
お茶を濁すようなやんわり風味で返したのに女性陣は気に入らなかった模様。
「えー、サトシさん38ですよね~。まだそんなこと言ってるんですか~。いい加減一家の大黒柱になって父親になる自覚持ちましょうよー!40代になってから絶対後悔しますよー!寂しい老後でいいんですか?私孤独死とか絶対ムリー!」
「で、ですよねー!あー、僕も頑張らないとな~!あ、明日もハロワ行かなきゃいけないので今日はこの辺で。あ、お金置いときますね。みなさんゆっくり楽しんでくださーい。」
節約のためにタクシーを使わずに7kmの道のりを歩いて帰るオレの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
※あくまでフィクションであり、自分の現状ではありません。